(雑誌 コア東京 より 2013年)
20代 -建築を追いかけて-
20代の10年間は建築を学び修行した時代だ。ゴールデンウイーク、夏休み、冬休みは国内外の建築を見てまわった。趣味のバイクで友人とツーリングがてら、北海道から本州・四国・九州を訪れ、建築を雑誌でなく肌で感じた。
修行した設計事務所は建築に対するこだわりが強かった。少人数でアトリエ的な事務所だった。設計の進め方や、施主・協力事務所・現場所長とのやり取りを間近で見ることができ、いずれ独立しようと考えていた私は多くのことを学ぶ機会を得た。秋田・宮城・東京・岡山・広島・香川の公共建築に携わり、ハードだが刺激的で純粋に建築を考え、そして造ることができた。この10年間の経験は、以後の私の建築に対する考え方に大きな影響を与えた。


江戸川コミュニティ会館 内部
30代 -事務所設立・教育・地域-
30歳のとき担当していたプロジェクトが竣工したのを機に、設計事務所を退社し独立した。半年後最初の仕事の依頼を受けた。個人住宅の仕事であった。うれしくて無我夢中で設計に没頭した。竣工後まもなく同じ施主から公共建築(コミュニテイ会館)の仕事の依頼を受けた。区の経費節減のため、民間の土地に民間が建物を造り、それを区が借りて区民に利用してもらうという方式で造られた。公共建築の設計は修行時代にいくつか経験していたが、自分の事務所の仕事として造るとなるとやはり一層気合が入った。気がつくと計画案は20案以上になっていた。約4年、設計にかかった。

江戸川コミュニティ会館
独立と同時に専門学校の非常勤講師の話を頂き、建築設計の授業を10年間受け持った。学生の自由な発想に刺激を受けた。
地元の設計事務所十数社で構成された「地域設計懇話会」にも参加させてもらい、地元の街造りや住宅の建替え等について区と連携し、ワークショップなどを開催し、専門化として住民にアドバイスを行う活動なども行なった。

江戸川コミュニテ会館の計画案の一つ。光の入れ方の検討
40代 - 建築の力-
ここ最近、江戸川コミュニティ会館の施主から続けて2件の仕事の依頼を受けた。時代の流れかひとつは高齢者用の集合住宅、もうひとつは高齢者グループホームの仕事である。何度も仕事を依頼してくださるのは本当にありがたいと思う。



海老名の家 向かいの雑木林を切り取る窓
建築には人に感動与える力があると思うで、計画案のスケッチをしているときはどうすればそれが実現できるのかを考えている。施主があっての我々なので施主の要望は注意深くお聞きし設計するのは当然ではあるが、感動をどう生み出すかにこれまた当然時間をかけることになる。エライ時間がかかり何度か依頼をキャンセルされたこともある。自分に依頼してくださった施主に対して、自分が納得できないものを提案するのは失礼だという思いがある。


イタリア創作料理 108枚の三角形のシナ合板天井

加須の家 ワンルーム·回遊

篠崎の家
ベクトル -これからの方向性-
さて、建築を始めて、学生時代も含めて27年。46歳になった今、どの方向へ向かって行きたいのか一度考えてみる必要がありそうだ。バブル崩壊後の低成長時代を走ってきた。これからの時代の流れに逆らうつもりもない。ただ建築をこの世に残す仕事をする者として何をしなければならないのか再度良く考えなくてはならない。修行時代の事務所の所長はよく言っていた。「答えはどこにもない。あるのはココ(頭)だけだ。」と。
最近は表向き環境に良いとの理由でなるべく車でなく自転車で現場などに行くようにしている。もちろん裏の理由はおなかをへこませるためである。目的地までの時間は少し余分にかかるが、車で移動していた時には見えなかったものが良く見える。発見がある。これからの進むべき方向性についてパソコンの前にじっと座って考えるよりも、体を動かして、風を感じながら妄想したほうが良い考えが浮かびそうな気がしている。

愛車のビアンキ